
(小鮎川の夕暮れ)
「私の髪を洗ってくれないか」
母が亡くなる数年前のある日、突然言った。
八十五歳だったと思う。
一人で東京へ遊びに来ていたから、まだ元気だった。
母の髪を初めて洗った。
小さな頭だった。
自分から頭を差し出す仕草にハッとした。
この小さな母から産まれ、こうして母から洗って
もらったのだ。
小さな頭の細い髪を撫でるようにして洗った。
吾子のごと屈める母の髪洗う あかね
(あこのごとかがめるははのかみあらう)
生き抜きし小さな母の髪洗う あかね
夏の季語; 髪洗う
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