2010年7月19日月曜日

髪洗う


              (小鮎川の夕暮れ)

「私の髪を洗ってくれないか」
母が亡くなる数年前のある日、突然言った。
八十五歳だったと思う。
一人で東京へ遊びに来ていたから、まだ元気だった。
    
母の髪を初めて洗った。
小さな頭だった。
自分から頭を差し出す仕草にハッとした。
この小さな母から産まれ、こうして母から洗って
もらったのだ。
小さな頭の細い髪を撫でるようにして洗った。
   
  
 吾子のごと屈める母の髪洗う     あかね
  (あこのごとかがめるははのかみあらう)

生き抜きし小さな母の髪洗う     あかね
   
  
夏の季語; 髪洗う